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逮捕の基準の曖昧さを考える

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 第45回 逮捕の基準の曖昧さを考える

 第45回は逮捕の現状について考えてみたい。

 逮捕とは警察官等が事件等の容疑者とされる人物の身体を拘束し、強制的に警察署内の留置場に収容するものである。本来としては容疑者の逃走や証拠隠滅の防止のための措置であるが、逮捕されると多くの場合に実名報道がなされ、世間では「犯人」と確定されたかのような風評が広まる。その後、捜査や裁判で犯人でないことが確定しても、無実の罪であったことが報道されることはほとんどない。逆に逮捕されずに書類送検され裁判で有罪が確定しても、書類送検で実名報道されることは稀であるため、前科が付いたことを社会に知られる可能性はほとんどない。つまり、被疑者本人にとっては裁判で有罪か無罪かというよりも、逮捕されるか否かという問題のほうが人生に与える影響がはるかに大きい。刑事裁判においては、有罪が確定するまでは「無罪推定の原則」や「疑わしきは被告人の利益に」などという原則があるが、現実には逮捕が報道された段階で社会から制裁を受ける。

 高齢者が母子を死亡させた池袋暴走事故では、容疑者は逮捕されなかったため当初は実名が報道されず、その後も実名に敬称や元の職業名を付して報道したため、国民の警察への不信感が爆発した。専門家はこぞって「高齢であるから」「逃亡の恐れがないから」と逮捕しないことの正当性を主張するが、その後の同様の事故においてはほとんどが逮捕、実名報道がされており、逮捕の基準が曖昧であることに違いはない。つまり、人生に甚大な影響を与える逮捕が、現場の警察官により恣意的に運用されているというのは一般市民にとって大きな脅威である。刑事のなかには基本的な民法や刑法について仰天するほど知識不足の者もおり、強力な権限が付与されている警察官は十分に知識や経験を積む者でなければならないと思う。

 先月、旭川市内の新聞記者が立ち入りが制限されている大学の私有地に侵入し現行犯逮捕される事件があった。強盗や窃盗のために侵入したのであれば逮捕されるだろうが、取材のための侵入で逮捕されたケースは珍しい。もちろん、事件の加害者親族や被害者へのプライバシーを無視した取材は目に余るのだが。この記者は大学職員によって現行犯逮捕されているが、現行犯逮捕は警察官のみならず被害者や目撃者など私人でも行なうことができる。私人逮捕によって身柄を警察署に引き渡された場合に、警察官が罪の軽重を考慮し逮捕ではなく書類送検することがあるのかと北海道警察本部に問い合わせたが、本部ではなく「管轄署の刑事に聞け」という。つまり、警察組織としての逮捕の基準は明示できないほど非常に曖昧で、実際には現場の警察官のさじ加減次第なのである。

 もちろん、警察官も裁判官も超能力者ではないため完全を要求することはできないが、だからこそ、人生を破壊しかねない逮捕の運用には十分に慎重になってほしいものである。